ピロリ菌除菌後なのに検診でピロリ菌抗体陽性と言われたら
最近ヘリコバクターピロリを除菌される方が増えてきて、それに伴い、“除菌に成功したはずなのに、1年後(あるいは2年後)の検診で”ピロリ菌抗体が陽性“と言われました。何故でしょうか?”というご質問を度々受けるようになりました。
ご自分ではピロリ菌の除菌に成功したと思って安心していたのに、“ピロリ菌抗体陽性”の判定結果が出ると、動揺されるのももっともだと思います。
ご安心ください。結論から言うと、ピロリ菌は一度除菌に成功すると(前回の除菌判定が正確な場合ですが)、再発・再感染は殆どしません1)。ただし除菌に成功してもピロリ菌抗体が完全に消える(陰性になる)には、かなり時間がかかることが分かっています。血清ピロリ菌抗体は永久抗体ではなく、除菌治療に成功すれば徐々に低下します。しかし個人によってスピードに差があり、大部分は数年以上経過すれば陰性化しますが、一部には長期間陰性化しない人もいるのです。
関連文献によりますと、抗体陰性化の平均期間は約18か月と言われ2)、除菌後例232例のうち21.1%でEプレート“栄研”Hピロリ抗体(以下Eプレート)で10U/ml以上の陽性だったという研究結果や、除菌後例(経過年数1~12年)53例中15例(28.3%)が血清ピロリ菌抗体(Eプレート)陽性だったとの報告もあります3)。
今回私のクリニックでも、3人の方がピロリ菌除菌成功後、1年後2年後のそれぞれで検診のピロリ菌抗体が陽性だったと言われ、内視鏡後に尿素呼気試験を行いましたが、3人とも陰性で、安心して帰られました。
ヘリコバクターピロリ学会ガイドラインでは、ピロリ菌抗体を除菌判定に用いる場合は除菌前と除菌後6か月以上経過した時点で、同じ測定方法で、抗体価が除菌前の半分以下に低下した場合に除菌成功したと判断するとされています。しかし、実際には前述したようにピロリ菌抗体が陰性化するには長期間を要する場合もあり、除菌判定には用いるべきではないと思います。
以上より、除菌後に検診で“ピロリ菌抗体陽性”と判定されても、実際には除菌されている場合が殆どであり、心配せずに、まずは除菌を担当した医師もしくは専門医に相談されるとよいと思います。何か不安な点がございましたら、いつでもお気軽に当クリニックにご相談にいらして下さい。
参考文献)
1)ピロリ菌除菌療法ハンドブック改訂版 杉山敏郎・高橋信一
2) H.pylori除菌治療に伴う血清抗体価の経時的観察 松久威史・津久井拓
3) ピロリ菌除菌後に抗体が陰性化しない場合の対応は? 井上一彦 日本医事新報